東京会計パートナーズAI導入
経営者の事業承継の相談に、税務や経営の分野をまたいで伴走する「東京会計パートナーズ」が、AIが経営者に質問するチャットボットで、事業承継の提案ができる営業を3〜5名から約20名全員に広げました。AWS(アマゾン ウェブ サービス)が2026年10月15日に公式ブログで公開した事例です。AnthropicのClaudeと、社内の知識を参照するRAGを組み合わせています。ただし、成約率や売上への効果は、まだ公表されていません。
【出典元】東京会計パートナーズ様、Amazon Bedrock の生成 AI チャットボットで事業承継の提案ができる営業を 3〜5 名から約 20 名全員に拡大(AWS)
事業承継を提案できる営業が約20名に
事業承継とは、会社を後継者に引き継ぐことです。税金、資金繰り、保険、経営など、幅広い知識が必要になります。そのため、これまで経営者の相談に応じられるのは、社内のトップ営業3〜5名に限られていました。
導入前後の違いは、次のとおりです。
| 項目 | 導入前 | 導入後 |
|---|---|---|
| 事業承継の提案ができる営業 | 3〜5名 | 約20名全員 |
| 相談の始め方 | 営業担当者が切り出す | AIが経営者に質問する |
| 専門知識 | ベテランの経験に頼る | RAGで社内の知識を参照する |
課題は人手不足より相談のきっかけ
記事は、本当の課題を「人手が足りないこと」ではなく、経営者から相談が来にくいことだと説明しています。事業承継は、「自分が亡くなったら株式はどうなるのか」「相続税はいくらかかるのか」といった、切り出しにくい話題です。深い信頼関係ができてから、ようやく相談される種類の話でもあります。
つまり、専門知識があっても、営業担当者のほうから話題にしづらい状況がありました。AIは、この「入口」を作る役を担っています。
AIが経営者に質問を投げかける
このチャットボット「経営者のアシストAI」は、利用者が質問を入力する形ではありません。AIのほうから質問します。流れは次のとおりです。
- 経営者がチャットを始める(所要時間はおよそ5分)
- AIが、選択式や自由入力で、10〜20問ほど質問する(相続に関する対話の場合)
- 回答に応じて、次の質問が変わる(後継者についての答えで、次の問いが分かれるなど)
- 質問の合間に、相づちやアドバイスが入る
- 最後に、税務・法務・保証の観点から整理した、次の行動が示される
示される内容の例は、「1年以内にやるべきこと」や「税理士に相談すべき点」です。結果を見たあとも、経営者は自由に入力して、相談を深められます。
社内のノウハウをRAGで参照する
RAGとは、AIが答えるときに、あらかじめ登録した資料から関連する内容を探し、回答の根拠にする仕組みです。このチャットボットでは、東京会計パートナーズが長年培った事業承継のノウハウ、過去に書いた書籍のデータ、実務の知見を登録しています。
運用の工夫も紹介されています。
- Excelでルールを管理:「この質問にはこう答える」「これは言ってはいけない」を、Excelの表にまとめて取り込めます。開発をしなくても、AIの答え方を調整できます
- 範囲外の話題を防ぐ:将来、経営者がアカウントを自由に使えるようにする構想があり、相談と関係のない用途を防ぐために、Amazon Bedrock Guardrailsを使っています
- 構築期間:RAGの部分は、約3営業日で完成しました
全体の開発期間は、記事には書かれていません。
3者の役割分担が明確
構築は、3つの組織で分担しました。
| 担当 | 役割 |
|---|---|
| 東京会計パートナーズ | 事業承継のノウハウの提供、Excelでのルール整備 |
| ゼネット | AIモデルの比較、質問の調整、質問データの整理、保守 |
| AWS | 支援する立場 |
現場からは、「経営者に、こんな面白いAIがあります、と切り出せるようになった」という変化が報告されています。AIが切り出しにくい問いを代わりに投げかけるため、営業担当者は事例を交えて自然に話を始められるといいます。一方で、質問を増やした詳細版や、短時間の簡易版を求める声も出ています。
成果の数字はまだ未公表
記事は、本格的な稼働が始まったばかりだとしています。公表されていない情報は、次のとおりです。
- 商談や成約への効果
- 利用した経営者の数
- 導入にかかった費用
- 全体の開発期間
- 使ったClaudeのバージョン
「提案できる営業が増えた」のは確かですが、それが売上につながったかどうかは、まだ分かりません。今回の事例は、効果の証明というより、設計の参考として読むのが妥当です。
ほかの仕事に応用できる3つの点
以下は、事例からの私たちの読み取りです。営業以外の仕事にも応用できます。
- AIに質問させる:利用者が指示文を考えなくても、AIが必要な情報を聞き出して、次の対応につなげられます
- 人の役割を残す:AIは相談の入口を作り、関係づくりと最終的な提案は、人が担います
- 現場が育てられる形にする:Excelのようなやさしい形式で、答え方のルールを直せると、運用が続きます
同社は、同じ仕組みを土台に、事業承継以外の経営の悩みに応えるシミュレーターも構想しています。
まとめ
東京会計パートナーズは、ClaudeとRAGを使った「AIが質問する」チャットボットで、事業承継の提案ができる営業を3〜5名から約20名全員に広げました。AIが営業を置き換えたのではなく、相談の入口を作る役を担っている点が特徴です。成約率などの数字は未公表なので、成果の判断はこれからです。AIを導入するときは、まず「誰が最初の一言を言うのか」から考えてみてください。