AIは仕事を奪っていない? イェール大学の最新研究

AIは仕事を奪っていない? イェール大学の最新研究

【画像】Aibrary公式Pinterest

ChatGPTの登場から約3年。「AIに仕事が奪われる」という不安が広がっていますが、アメリカの労働市場は本当に変わったのでしょうか?
イェール大学の最新研究によると、現時点では「目立った混乱は見られない」という意外な結果が出ました。過去の技術革行とも比較した、AIと雇用の「今」を詳しく解説します。

【出典元】Evaluating the Impact of AI on the Labor Market: Current State of Affairs

イェール大学「労働市場に大きな混乱なし」

2025年10月、イェール大学バジェットラボは、AIがアメリカの労働市場に与える影響についての研究レポートを発表しました。この研究は、ChatGPTが登場した2022年11月から約3年間の月次データを分析したものです。

研究チームが注目したのは、「AIが人間の仕事を奪い始めているか」という点です。しかし、データを詳細に分析した結果、労働市場全体としてAIによる「識別可能な混乱(discernible disruption)」、つまり目に見える大きな変化は確認できないと結論付けました。

過去の「PC・インターネット普及期」とも比較

今回の研究では、AI登場後の変化のペースが、過去の大きな技術革新(PCやインターネットが普及した時期)と比べて速いかどうかも調査されました。

その結果、現在起きている「人々がどんな仕事に就いているか」の変化の速さは、過去の技術革新の時期と比べても、特に速まっているわけではないことが示されました。

なぜ「AIの影響」はまだ見えないのか?

「AIに仕事が奪われる」という予測に反し、なぜ現実のデータでは大きな変化が見られないのでしょうか。研究では、以下の2つの点が指摘されています。

「AIに代替されやすい仕事」も減っていない

研究では、OpenAIなどの指標に基づき、「AIによって自動化されやすい」とされる職業についても分析が行われました。

驚くべきことに、これらの「AIに代替されやすい」と見なされている職業の雇用が、AIの影響を受けにくい職業と比べて特に減少しているという一貫した証拠は見つかりませんでした。AIを使っているかどうかと、雇用が増えたり減ったりすることの間に、現時点では明確な関係性が見えていないのです。

技術が社会に浸透するには時間がかかる

レポートは、歴史的な視点も示しています。過去を振り返ると、新しい技術が発明されてから、それが社会に広く普及し、労働市場全体に大きな影響を与えるまでには、数ヶ月や数年ではなく、「数十年単位」の時間がかかっています

AIの影響も、もし劇的な変化が起こるとしても、現在の約3年という期間ではなく、もっと長い時間軸で考える必要があると研究は示唆しています。

唯一の懸念:若年層へのわずかな変化

ただし、研究は一つの懸念点も挙げています。それは、大学を卒業したばかりの「20~24歳」の若年層と、少し上の世代である「25~34歳」の間で、就いている仕事の内容にわずかな「違い」が見られ始めている点です。

これが「AIがキャリアをスタートさせたばかりの人々に影響を与え始めたサイン」なのか、それとも単に「景気の冷え込みによる影響」なのかは、現時点では断定できないとしています。

まとめ

今回のイェール大学の研究は、「AIがすぐに大量の仕事を奪う」という単純な見方に一石を投じるものです。AIの技術は急速に進化していますが、それが社会全体の雇用に影響を与えるには、まだ時間がかかる可能性が高いことが示されました。

もちろん、これは「AIがまったく影響を与えない」という意味ではありません。レポートも、今回の分析はあくまで「初期の状況」であると述べています。AIの導入はまだ始まったばかりであり、今後どのような変化が起きていくのか、継続して注目していく必要があります。

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