「介護情報基盤」の仕組み・導入スケジュールを厚労省資料から解説

介護分野で進められている「介護情報基盤」。2026年度から順次稼働を開始し、2028年度までに全国展開が予定されている。利用者本人や自治体、介護事業所、医療機関が、本人の同意を前提に介護情報を電子的に共有できる仕組みで、業務効率化とサービスの質向上を目指す。
◆介護情報基盤導入の大まかなスケジュール
年度・時期 | 内容 |
---|---|
2025年夏(令和7年) | DX補助金開始(介護事業所・医療機関の環境整備支援) |
2026年4月(令和8年度) | 改正介護保険法施行、準備が整った自治体から運用開始 |
2027年度(令和9年度) | 移行が進み対応自治体が拡大、大規模自治体向け技術支援強化 |
2028年4月(令和10年度) | 全国すべての市町村で本格運用開始予定 |
【参考】厚生労働省:第118回社会保障審議会介護保険部会の資料について
介護情報基盤の仕組み
介護情報基盤は、厚生労働省が進める「全国医療情報プラットフォーム」の一部として構築される。自治体が持つ介護保険事務システムを標準準拠システムに改修し、国保中央会が運営する介護情報基盤と接続することで、関係者が共通のデータを参照できる仕組みとなる。
やり取りできる情報は幅広く、主に以下が含まれる。
- 要介護認定情報:認定調査票、主治医意見書、審査会資料など
- 介護保険証関連情報:被保険者証、負担割合証、限度額認定証
- ケアプラン情報:居宅サービス計画書や施設サービス計画書
- LIFE(科学的介護情報システム)データ:ADL、栄養、口腔・摂食嚥下などのフィードバック票
- 給付実績や利用情報:給付管理票、介護給付費請求書、住宅改修や福祉用具購入の履歴
利用者本人はマイナポータルを通じて自分の介護情報を確認でき、介護事業所や医療機関は介護WEBサービス経由でアクセスする。閲覧や送信にはマイナンバーカードによる本人確認やクライアント証明書が用いられ、通信はTLS1.3で暗号化されるなど、セキュリティ対策も組み込まれている。
この仕組みにより、紙や郵送に頼らず、利用者・自治体・事業所・医療機関が一元的に介護情報を共有できる基盤が整備されることになる。
地域別の導入準備状況
厚労省が実施した自治体アンケート調査(令和6〜7年)によると、令和7年度末までに介護情報基盤へ移行するのは困難と回答した市町村が全体の半数を超えた。特に大規模自治体では移行準備の遅れが顕著である。
- 政令指定都市・特別区:7割以上が「移行困難」と回答
- 中核市:約半数が「移行困難」と回答
- 小規模自治体:比較的早期の移行が可能とする回答が多い一方で、財政負担を懸念する声も多い
厚労省はこの調査結果を踏まえ、2026年度(令和8年度)から準備が整った自治体から順次稼働し、最終的に2028年度(令和10年度)までに全国展開する段階的な導入スケジュールを提示している。
導入の遅れの要因としては、システム改修に必要な費用、人材不足、既存システムとの互換性の確保などが挙げられており、今後は国による技術支援や補助制度が鍵となる。
利用者視点でのメリットと懸念
介護情報基盤の整備は、利用者本人にとっても大きな変化をもたらす。厚労省の資料では、本人確認や同意のもとでマイナポータルから情報を閲覧できる仕組みが示されており、これまで見えにくかった自分の介護情報に直接アクセスできるようになる。
メリット
- 情報の見える化
要介護認定の結果やケアプラン、過去の主治医意見書などをオンラインで確認でき、サービス利用の透明性が高まる。 - 手続きの簡素化
被保険者証や限度額認定証の更新手続きが電子化され、書類の持参や郵送が不要に。 - サービスの質向上
介護事業所や医療機関と情報が共有されることで、自分に合ったケアを受けやすくなる。
懸念
- デジタル格差
高齢の利用者や家族の中にはマイナポータルの利用が難しい人も多く、アクセスに差が生じる可能性がある。 - 情報の取り扱い不安
マイナンバーカードを用いた認証やオンラインでのデータ閲覧に対し、個人情報の漏えいを懸念する声もある。 - 自治体間の導入格差
移行が遅れる自治体に住む利用者は、制度の恩恵を受けられる時期が遅れる恐れがある。
導入スケジュール詳細
厚労省が示した介護情報基盤の導入スケジュールは、段階的な全国展開を前提としている。法改正や自治体システムの改修状況を踏まえ、以下の流れで進む予定だ。
- 2025年夏(令和7年)
介護事業所・医療機関向けのDX補助金がスタート。カードリーダーやセキュリティソフト導入など、基盤活用に必要な環境整備を支援する。 - 2026年4月(令和8年度)
改正介護保険法の施行に合わせ、準備が整った自治体から介護情報基盤の運用を開始。市町村の介護保険事務システムが標準準拠システムに対応し、データ送信が可能になったところから順次利用が広がる。 - 2027年度(令和9年度)
前年度からの移行が進み、さらに多くの自治体で基盤の活用が開始。大規模自治体での導入課題を解消するため、国が技術支援を強化する予定。 - 2028年4月(令和10年度)
全国すべての市町村で介護情報基盤が本格運用を開始。介護・医療・自治体・利用者が同じ情報基盤を活用できる体制が整う見込み。
まとめ
介護情報基盤は、紙やFAXに依存していた介護現場を大きく変える国家プロジェクトだ。利用者にとっては「自分の情報が見える」安心感につながる一方、デジタル格差や自治体ごとの進捗差といった課題もある。2026年の稼働を前に、自治体・事業所・利用者がそれぞれ準備を進めることが求められる。