Google、端末で動く埋め込みモデル「EmbeddingGemma」を公開 高速・軽量でプライバシーにも配慮

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テキストを数値ベクトルに変換する「埋め込み(Embedding)」技術に、新たな選択肢が登場した。Googleは2025年10月、「EmbeddingGemma」という軽量で高性能なオープンモデルを公開した。
Gemmaシリーズ初の“オンデバイス埋め込みモデル”として、スマートフォンやPC上で高速に動作し、プライバシーを守りながら高精度な検索や生成AIタスクを実現する。

◆EmbeddingGemmaの5つのポイント

  1. オンデバイスで動作する軽量モデルで、スマホやPC上で高速にテキスト埋め込みを生成できる。
  2. 約3億パラメータながら高精度で、ベンチマークでも同規模モデルを上回る性能を発揮する。
  3. 出力次元を自由に調整できる柔軟設計で、用途に合わせて軽量化や最適化が可能。
  4. 100以上の言語に対応し、多言語検索や翻訳支援など幅広い応用ができる。
  5. オープンソースで主要AIライブラリと連携可能なため、開発者が簡単に利用できる。

EmbeddingGemmaとは

EmbeddingGemmaは、約3億パラメータの小型埋め込みモデル。入力されたテキストを数値ベクトル(Embedding)に変換し、類似文書検索や分類、RAG(Retrieval Augmented Generation)などに活用できる。

大きな特徴は「オンデバイス動作」だ。クラウドにデータを送らず、スマートフォンやローカルPC上でテキスト解析ができるため、ユーザーのプライバシーを保ったままAI機能を提供できる。
Googleによると、EdgeTPU上では256トークンの入力を15ミリ秒未満で処理できるという。

EmbeddingGemmaとAIエージェントの違い

・EmbeddingGemmaは「テキストを数値に変換する技術」
文章や単語の意味を数値ベクトル(=埋め込み)に変えるモデルで、「テキスト間の類似度を測る」「意味が近い情報を検索する」ために使われます。
つまり、理解や判断をするモデルではなく、情報を整理・検索するための基盤技術です。

・AIエージェントは「理解して行動する仕組み」
ユーザーの指示を理解し、タスクを実行したり、外部ツールを使ったりするのがAIエージェント。
その中では、検索や推論の一部でEmbeddingモデルが使われることがあります。

具体例でいうと…

たとえばAIエージェントが「このPDFから関連情報を探してまとめて」と指示を受けたとします。

  1. PDF内の文章をEmbeddingGemmaで数値化
  2. ユーザーの質問文もEmbeddingGemmaでベクトル化
  3. 類似度を計算して、関連のある段落を抽出
  4. その情報をLLM(Geminiなど)が要約・回答

このように、EmbeddingGemmaは“情報検索の頭脳”としてAIエージェントを支える役割を果たします。

高性能と柔軟性を両立

EmbeddingGemmaは、文書の意味をとらえる精度を測る「MTEBベンチマーク」で、同規模のモデルを上回る性能を示した。
また、「Matryoshka表現」という手法により、用途に応じて出力ベクトルの次元(768/512/256/128など)を自由に変更できる。これにより、軽量アプリから大規模検索まで幅広い環境に対応できる設計になっている。

さらに、100以上の言語に対応しており、多言語ドキュメント検索や翻訳支援にも応用可能だ。

RAGやローカル検索で活躍

EmbeddingGemmaの主な用途は、生成AIの「検索拡張(RAG)」パイプラインだ。
ユーザーの質問をベクトル化し、ローカルやクラウド上の文書群から関連度の高い情報を取得する。その後、大規模言語モデル(LLM)がその情報を基に回答を生成する。

従来はこの「検索」部分にクラウド接続が必要だったが、EmbeddingGemmaを使えば、端末内のファイル・メール・メモなどをオフラインで検索できる。
個人データを守りながら高機能なAIアシスタントを作る上で、重要な技術になると見られる。

開発者に向けて公開、主要ライブラリとも連携

EmbeddingGemmaは、Hugging FaceやKaggleなどで公開されており、誰でも無料で利用可能だ。
また、sentence-transformersLangChainTransformers.jsなど主要なAI開発ライブラリとすでに統合されており、数行のコードで導入できる。

一方で、Googleは高精度なクラウド用途向けとして「Gemini Embedding」モデルも提供しており、用途に応じた使い分けを推奨している。

Googleの戦略と今後の展開

Gemmaシリーズは、Googleの「オープンかつ責任あるAI開発」方針の象徴でもある。
大型のGemmaモデルがクラウドAIの強化を担う一方で、EmbeddingGemmaは“端末上の知能”を担う存在だ。
これにより、クラウドとデバイスが連携しながらAIを安全に活用する「ハイブリッドAI時代」が加速すると見られる。

まとめ

EmbeddingGemmaは、軽量でありながら高性能なオープン埋め込みモデルとして、開発者とユーザー双方に新しい可能性をもたらす。
オンデバイスで動作するAIが一般化すれば、個人データを外に出さずに賢く動くアプリが当たり前になるだろう。
Googleが描く次のAIインフラは、クラウドだけでなく、私たちの手の中でも動き出している。

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