生成AI活用と校務DXで教師の負担軽減へ、政府が新ロードマップ

デジタル庁、文部科学省など関係省庁は6月13日、「教育DXロードマップ」を改訂しました。教師が子どもに向き合う時間を増やすため、生成AIを校務や授業準備に活用する方針を明記しました。
「12のやめることリスト」で紙作業を減らし、校務DXの全国展開を進めます。教育データの活用や多様な学習ツールの整備も盛り込まれ、教育現場のデジタル変革が加速する見通しです。
◆この記事の3つのポイント
①教師の負担軽減へ
「12のやめることリスト」で紙や電話業務をデジタル化し、生成AIを教材作成や採点に活用して教師が子どもと向き合える時間を確保。
②校務・入試のデジタル化
校務支援システムをクラウド化、高校入試事務を全面的にデジタル完結する方針を打ち出し、2029年度までの全国移行を目指す。
③学びの質向上と拡張
AIドリルやデジタル教科書による個別最適化を推進し、学習データの標準化・連携により、生涯にわたる学びとキャリア支援を実現。
教育DXロードマップとは
政府が改訂した「教育DXロードマップ」は、「誰もが、いつでもどこからでも、自分らしく学べる社会」の実現を目指す指針です。今回の改訂では以下の点が強調されています。
- 生成AIなど最新技術の導入:教育現場の効率化と学びの質の向上を両立します
- 今後3〜5年の具体施策:端末・ネット環境整備から教育データ利活用まで幅広く明示します
- 教師の負担軽減を前提条件に:業務効率化を通じて子どもと向き合う時間を確保します
教育DXのスタート地点を「教師が雑務に追われない環境づくり」とすることで、教育の質を底上げする狙いがあります。
教師の負担軽減に向けた具体策
教育DXロードマップの大きな柱が「12のやめることリスト」です。従来、教師を縛ってきた紙や電話を中心とした業務をデジタル化し、教育活動に専念できる環境を整える狙いがあります。
【やめることリスト(デジタルに変えること)】
①電話による児童生徒の欠席連絡受付
②紙での保護者への調査・アンケート配布
③紙での各種調査票(保護者⇔学校)のやり取り
④紙での教職員への調査・アンケート
⑤新入学児童生徒の名簿情報の不必要な手入力
⑥電話や書面による保護者との日程調整
⑦職員会議等での資料の紙配布
⑧紙での児童生徒への調査・アンケート
⑨学校から保護者へのお便りの紙配布
⑩教職員が作成した教材等を各自で保存
⑪学校徴収金の現金集金
⑫紙での学校行事や特別教室の予約管理
これらをデジタルに置き換えることで、再入力や持ち運び、印刷の手間をなくし、セキュリティリスクも軽減できます。
加えて、生成AIの積極活用も進められます。具体的には、
- 教材や小テストの下書き作成
- 学級通信やお便りの作成補助
- テスト採点やアンケート集計の効率化
といった業務にAIを導入し、教員の時間を大幅に削減します。こうした改革により、「教師が子どもに向き合う時間を取り戻す」ことが教育DXの核心といえます。
校務DXと高校入試のデジタル化
教育DXロードマップでは、教師がより子どもに向き合えるように、校務や入試事務のデジタル化を進める方針も打ち出されました。
【校務DXの推進】
- 校務支援システムをクラウド環境へ移行します
- 複数のシステム間で「ワンスオンリー」(一度の入力で複数システムに反映)を実現します
- 調査のオンライン化を推進し、文部科学省の「EduSurvey」を活用します
- 自治体単位での共同調達・帳票統一により、効率的に導入します
これにより、従来は教師が紙やオンプレミス環境に縛られていた校務が、柔軟かつ効率的に行えるようになります。
【高校入試事務のデジタル化】
- これまで紙の調査書や郵送で行われていた業務を全面的にデジタル化します
- 2025年度から入試手続き全体のデジタル完結に向けた実証を実施します
- 調査書や出願関連のやり取りをクラウドで処理し、セキュリティと効率を両立します
- 2029年度までに全国で次世代校務DX環境へ完全移行することを目標とします
こうした仕組みが整えば、学校現場の業務は大幅に効率化され、入試や校務にかかる手間が削減されます。結果として、教師はより多くの時間を教育活動に充てることが可能になります。
学習者の「自分らしい学び」の実現
教育DXロードマップが掲げる大きな目標は、子ども一人ひとりの特性や関心に応じた「自分らしい学び」を可能にすることです。そのために以下の施策が盛り込まれています。
【多様な学習ツールの活用】
- AIドリルや動画教材を通じて、得意・不得意に応じた問題提供を行います
- デジタル教科書で、動画や音声を組み合わせた多感覚的な学習を可能にします
- 生成AIを使った学習サポート(アイデア出し、英会話練習、プログラミング補助など)を行います
- 教師がクラウド上に共有した教材を自由に組み合わせて活用します
【1人1台端末とネット環境の整備】
- GIGAスクール構想の第2期で、全国の児童生徒に端末を行き渡らせます
- 2025年度までに全校で必要なネットワーク速度を確保します
- 不登校や病気療養中の子どももオンライン教育を通じて学びを保障します
【自律的な学びを支援】
- 自分の学習データを振り返り、学習計画や進捗管理に活用します
- 生成AIとの「壁打ち」で足りない視点を発見し、考えを深めます
- データに基づくパフォーマンス評価やポートフォリオ評価を導入します
こうした環境が整うことで、子どもたちは「苦手だからついていけない」「授業が簡単すぎて退屈」といった状況から解放され、それぞれのペースで主体的に学べる未来が描かれています。
今後の展望
教育DXロードマップは、学校教育にとどまらず、生涯学習や社会全体へと広がるビジョンを描いています。今後の展望として、特に以下のポイントが重視されています。
【教育データの標準化と相互接続】
- 各システムやツールをつなぐ「相互運用標準モデル」を策定し普及します
- 教育データを「主体情報・内容情報・活動情報」に整理し、共通フォーマット化します
- 学習履歴やスタディログを安全に連携し、学習者や教師の理解を支援します
- ダッシュボードで学習状況を可視化し、教育政策の改善に活用します
【生涯学習への拡張】
- 転校・進学時のデータ引継ぎをデジタルで完結させ、学びの連続性を保証します
- 就職や留学の際に、デジタル証明書で学習成果を提示できる仕組みを整備します
- マイナンバーカードや共通認証基盤を活用し、信頼性の高い学修歴証明を可能にします
- 公教育と家庭・塾・社会教育施設を横断的につなぎ、学びを一元的に記録します
【研究と政策への還元】
- 匿名加工された教育データを研究者が活用し、学習法や教育政策を改善します
- 実証事例や自治体間の知見を共有し、先進事例を全国へ横展開します
これにより、「一度の学びが一生の資産になる」社会の実現が見込まれています。教育は学校で完結せず、学習者のキャリアや人生全体を支えるインフラへと進化していきます。
まとめ
教育DXロードマップの改訂は、教師の働き方と子どもの学びの両面に大きな変化をもたらします。紙や電話に依存してきた校務をデジタル化し、生成AIを取り入れることで、教師が「子どもに向き合う時間」を取り戻せる環境が整いつつあります。
また、学習者にとっては、自分の特性や興味に応じた「自分らしい学び」が実現しやすくなります。さらに教育データの標準化や生涯学習への拡張により、学校教育は人生全体を支える仕組みへと進化していきます。今後は自治体間の取り組み格差をいかに解消し、現場に浸透させるかが成否の鍵となるでしょう。