ディズニー、Disney+でAI動画作成を開放か。著作権管理の新戦略
ディズニーのCEOボブ・アイガー氏は、同社の動画配信サービス「Disney+」に、ユーザーが生成AIを活用してコンテンツを作成・視聴できる機能を導入する方針を明らかにしました。これは、Disney+が単なる視聴プラットフォームから、ユーザー参加型のインタラクティブな体験の場へと大きく変わる可能性を示しています。
Disney+が「体験型」へ進化
アイガーCEOが決算発表の場で明かした新構想は、Disney+の未来を大きく左右するものかもしれません。単に映画やドラマを「見る」だけでなく、ユーザーがサービスに「参加する」ことを重視しています。
ユーザーがAIで「推し動画」を作る時代に?
現在検討されているのは、ユーザー自身がAIを使って短編動画を生成し、サービス上で共有・視聴できる機能です。
一部の報道によれば、テスト段階では以下のような機能が試されているとされています。
- ディズニー、マーベル、ピクサー、スター・ウォーズなどの作品からキャラクターやシーンを選択
- 簡単な指示(プロンプト)を入力
- AIがオリジナルのカスタムクリップ(短編動画)を生成
これが実現すれば、例えば「お気に入りのキャラクターの活躍シーンを集めた動画」や「特定のシーンを使った誕生日メッセージ動画」などを、誰でも簡単に作れるようになるかもしれません。
ディズニーが描く未来のプラットフォーム
ディズニーがAI機能の導入を目指す背景には、動画配信サービス間の競争激化があります。
狙いは「ユーザーの定着率」
アイガーCEOは、この新機能によってユーザーのサービスへの関心度や利用頻度、そして「定着率」が向上することを期待しています。TikTokなどで見られるように、ユーザーが自らコンテンツを作ることで、サービスへの愛着が深まることを狙っています。
動画配信から「総合ポータル」へ
今回の構想は、Disney+を単なる動画配信サービスから、ディズニーのあらゆる体験への「入り口(ポータル)」へと進化させる戦略の一部です。
同社は2024年に人気ゲーム『フォートナイト』の開発元であるEpic Gamesに巨額の出資を行っており、Disney+にゲーム的な要素を統合することも計画しています。将来的には、動画視聴、AIでのコンテンツ作成、ゲーム、さらにはテーマパークの予約まで、すべてがDisney+上で完結する世界を目指しているようです。
AI戦略の真意:著作権を守るための「管理」
この計画には、ディズニーにとって最大とも言える課題、すなわち「知的財産(IP)」の保護が常につきまといます。ミッキーマウスやマーベルのヒーローといったキャラクターは、同社が世界で最も厳格に守ってきた資産です。
一見、ユーザーにAIでコンテンツを作らせることは、著作権のリスクを高めるように思えるかもしれません。
しかし、今回のディズニーの動きは、著作権を諦めたのではなく、むしろ「AI時代における新しい著作権の守り方」を模索し、AIを自社の利益のために最大限活用しようとする戦略だと考えられます。
狙いは「無法地帯」の二次創作を「安全な場所」へ
現在、TikTokやYouTubeなど、ディズニーの管理が及ばない場所で、ファンによる二次創作(MAD動画やファンアートなど)が日々大量に作られています。これらはファンの熱意の表れですが、その多くは著作権法上「グレー」または「ブラック」な状態です。
ディズニーの戦略は、この「作りたい」というエネルギーを外部で放置するのではなく、Disney+という自社の「管理下(サンドボックス)」に誘導することにあると見られます。
安全な「公式の遊び場」の提供
導入されるAI機能は、「何でも自由に作れる」ものではありません。
- キャラクターのイメージを損なう不適切な表現(暴力的・差別的なものなど)は、AIが生成する段階でブロックされる。
- ユーザーは「公式の素材」を使い、「公式に許可された範囲」でのみ創作活動を行う。
このように厳格なルールの下で「公式のお墨付き」を与えられた遊び場を提供することで、ディズニーはユーザーの欲求を満たしてサービスへの愛着を深めてもらいつつ、外部での違法な二次創作を防ぎ、自社のキャラクターイメージが毀損されるリスクを最小限に抑えることができるのです。
これは、著作権を厳格に守ってきたディズニーだからこそできる、高度な「防衛」と「攻め」の戦略と言えるでしょう。
まとめ
ディズニーは、AIという新しい技術を、リスクとして恐れるのではなく、自社の厳格なルール下に取り込むことで、Disney+を「見る」場所から「遊ぶ・作る」場所へと変えようとしています。
著作権保護とファンの創造性を両立させ、新しいエンターテイメントの形を生み出せるのか、今後の動向が注目されます。