AI利用6人に1人、広がる格差

世界のAI利用6人に1人、広がる格差|Aibrary

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MicrosoftのAI Economy Instituteが公開した最新レポート「Global AI Adoption in 2025」によると、2025年後半には世界で6人に1人が生成AIを利用するまでに普及が進みました。

しかしその裏で、AIを使える国と使えない国の差、いわゆる「AI格差」が拡大していることも明らかになっています。
本記事では、Web版と詳細PDFの内容を統合し、世界のAI普及の実態と、その構造的な課題を読み解きます。

この記事のポイント

  • 世界の生成AI利用率は16.3%に到達し、普及は新たな段階に入った
  • 先進国と新興国の間でAI利用の成長スピードに差が生まれている
  • AI利用が進む国には、政策・教育・言語対応といった共通点がある
  • 韓国の急成長は「性能以外の要因」が普及を左右することを示している
  • オープンソースAI「DeepSeek」は、AI格差の構図を変えつつある

AIは社会を大きく変える可能性を持つ一方で、使えるかどうかによって新たな差を生みかねません。2025年のデータから見えてきた「AI普及の現実」を、順を追って解説します。

【出典元】
2025年の世界のAI導入:デジタル格差の拡大
・PDFレポート

目次

1. AI普及、2025年前半の15.1%から後半には16.3%へ

Microsoftのレポートによると、世界の生成AI利用率は2025年前半の15.1%から、後半には16.3%へと上昇しました。半年間で1.2ポイント増加しており、これは単なる緩やかな成長ではなく、社会レベルでの利用が着実に広がっていることを示す数字です。

時期世界のAI利用率
2025年前半15.1%
2025年後半16.3%
増加幅+1.2ポイント

一見すると1.2ポイントの増加は小さく見えるかもしれません。しかし、この数字は「新しいアプリが増えた」という話ではありません。
すでに世界人口の6人に1人が生成AIを使っている状態から、さらに利用者が上積みされていることを意味します。

特に重要なのは、生成AIが「試しに触ってみる技術」から、「日常的に使われる道具」へと移行し始めている点です。レポートでは、学習、仕事、問題解決といった場面でAIを使う人が増えていることが示されており、利用の質そのものが変化していることがうかがえます。

AI普及を測る「AI Diffusion」という考え方

このレポートで使われている指標が「AI Diffusion(AI普及率)」です。これは、一定期間内に生成AI製品を実際に利用した人の割合を、以下の要素を加味して算出しています。

  • 国ごとの人口規模
  • インターネット普及率
  • OSやデバイスの市場シェア

単なるアプリのダウンロード数やアカウント数ではなく、実際にAIを使ったかどうかを基準にしている点が特徴です。

つまりこの16.3%という数字は、「AIに興味を持っている人の割合」ではなく、「生活や仕事の中でAIを使った経験がある人の割合」を示しています。

「初期普及フェーズ」を抜けつつあるAI

このデータから見えてくるのは、生成AIがすでに初期ユーザー層だけの技術ではなくなりつつあるという事実です。
新しいテクノロジーは通常、専門家や一部の先進的な層から広がりますが、生成AIはその段階を越え、一般層へと確実に浸透し始めています。

一方で、この「世界平均16.3%」という数字は、あくまで平均値にすぎません。次のセクションで見るように、国や地域によって利用状況には大きな差があり、この点が2025年のAI普及を語るうえで最大の課題となっています。

2. 数字で見る「広がるAI格差」

生成AIの利用が世界全体で拡大する一方で、Microsoftのレポートが最も強調しているのが地域間におけるAI利用格差の拡大です。
2025年後半のデータは、「AIは広がっているが、同じ速さでは広がっていない」ことを明確に示しています。

グローバル・ノースとグローバル・サウスの現実

レポートでは、国や地域を大きく「グローバル・ノース」と「グローバル・サウス」に分けて分析しています。その結果は、次の表のとおりです。

地域2025年前半2025年後半増加幅
グローバル・ノース22.9%24.7%+1.8
グローバル・サウス13.1%14.1%+1.0

両地域の差は、2025年前半の9.8ポイントから、後半には10.6ポイントへと拡大しました。つまり、どちらの地域でもAI利用は増えているにもかかわらず、格差は縮まっていないのです。

なぜ「成長しているのに格差が広がる」のか

この結果が示しているのは、AI普及における「絶対量」ではなく、「成長スピード」の問題です。グローバル・ノースでは半年で1.8ポイント利用率が伸びたのに対し、グローバル・サウスでは1.0ポイントにとどまりました。

この差は一見小さく見えますが、利用者数が積み重なることで、長期的には大きな開きになります。
レポートは、この状態が続けば、AIを前提とした社会や経済から取り残される地域が生まれる可能性があると示唆しています。

AI格差は「技術」だけの問題ではない

重要なのは、この格差が単に「技術力の差」ではないという点です。レポート全体を通じて浮かび上がる要因には、次のようなものがあります。

  • 高速で安定したインターネット環境の有無
  • AIを学ぶ機会や教育制度の整備状況
  • 自国の言語に対応したAIモデルの存在
  • 政府や公共機関によるAI活用の有無

これらが組み合わさることで、AIは「使える人にはさらに便利な道具」になり、「使えない人には遠い存在」のままになります。

「次の格差」を生みかねないAI普及

レポートが警告しているのは、AIがこれまでのデジタル技術以上に、経済や生産性に直結する技術である点です。もし利用できる地域とできない地域の差が固定化されれば、AIは成長のエンジンではなく、新たな格差を生む要因になりかねません。

この視点から見ると、2025年は単なる「AI普及期」ではなく、AIが社会構造にどのような影響を与えるかが見え始めた転換点だと言えるでしょう。

3. AI利用が進む国、遅れる国の違い

AI格差をより具体的に理解するには、国別データを見ることが欠かせません。Microsoftのレポートによると、2025年後半のAI利用率ランキング上位国は、ほぼ顔ぶれが固定されています。

AI利用率 上位国の特徴

2025年後半時点で、AI利用率が特に高い国は以下のとおりです。

順位AI利用率
1位アラブ首長国連邦(UAE)64.0%
2位シンガポール60.9%
3位ノルウェー46.4%
4位アイルランド44.6%
5位フランス44.0%

これらの国々に共通しているのは、AIブームが始まる前から、デジタル基盤づくりを進めてきた点です。高速な通信インフラや行政のデジタル化が進んでおり、AIを使うための「前提条件」がすでに整っていました。

政府主導が普及を後押ししている

上位国では、AI活用が民間任せになっていません。政府が明確な方針を示し、教育や公共サービスにAIを組み込んできました。

たとえばUAEでは、2017年という早い段階でAI担当大臣を設置し、国家戦略としてAI活用を進めてきました。
その結果、国民にとってAIは「突然現れた新技術」ではなく、以前から身近に存在する道具として受け入れられています。

シンガポールや北欧諸国でも、行政手続きや教育現場でAIに触れる機会が多く、日常生活の延長線上にAIがあります。

アメリカが示す「別の課題」

一方で、注目すべき存在がアメリカです。アメリカはAI研究や最先端モデル開発、計算インフラでは世界をリードしていますが、AI利用率は28.3%で24位にとどまりました。

この結果は、技術力の高さがそのまま国民全体の利用につながるわけではないことを示しています。
AIが高度であっても、一般の人が日常的に使う動機や環境が整わなければ、普及は進みません。

レポートでは、こうした状況について、AIの社会的普及には、技術開発とは別の取り組みが必要であると示唆されており、教育、リテラシー向上、使いやすいサービス設計といった要素が、普及の成否を左右するとみられています。

「遅れている国」ではなく「条件が整っていない国」

AI利用率が低い国々について、レポートは単純に「遅れている」とは表現していません。多くの場合、課題は以下のような条件面にあります。

  • インターネット接続の不安定さ
  • 利用料金や決済手段の制約
  • 自国言語に対応したAIの不足
  • 教育や公共分野での導入遅れ

つまり、AI利用率の差は、国民の関心や能力の問題ではなく、使える環境があるかどうかの違いだと読み取れます。
この点を踏まえると、AI格差は今後の政策や技術の選択次第で、縮まる可能性もあれば、さらに固定化される可能性もあります。

4. 急成長する韓国に見る「AI普及の条件」

2025年後半のAI普及を語るうえで、最も象徴的な国が韓国です。Microsoftのレポートによると、韓国は2025年後半に世界で最大の成長率を記録し、AI利用率ランキングを一気に押し上げました。

指標数値
AI利用率(2025年前半)約26%
AI利用率(2025年後半)30.7%
増加幅+4.8ポイント
ランキング変動25位 → 18位

半年で7ランク上昇という結果は、偶然ではありません。レポートでは、この急成長の背景に3つの要因が重なったと分析しています。

国家主導のAI政策が普及を後押し

1つ目の要因は、政府による明確なAI政策です。韓国では2025年に、国家レベルでAIを推進するための体制が整えられました。

具体的には、AI政策を統括する国家委員会の再編や、AI基本法の制定が行われています。
これにより、AI活用が一部の企業や研究機関だけの取り組みではなく、教育や行政を含む社会全体のテーマとして位置づけられました。

制度面での整備は、企業や学校、自治体が安心してAIを導入するための土台になります。この「使ってよい」「進めてよい」という明確なメッセージが、普及のスピードを押し上げました。

韓国語対応AIの性能向上が転換点に

2つ目の要因は、言語対応の進化です。それまでの生成AIは、英語では高性能でも、韓国語では実用性に課題が残っていました。

しかし、GPT-4oやGPT-5の登場によって状況が一変します。文章作成や要約、翻訳、分析といった日常的なタスクにおいて、韓国語でも十分に使える品質に到達しました。

この変化は非常に重要です。AIは「自分の言葉で自然に使える」ようになった瞬間に、専門家の道具から一般の道具へと変わります。
レポートでは、韓国語性能の向上が、学校や職場でのAI利用を一気に広げたと指摘しています。

文化的ブームが一般層への入口になった

3つ目の要因は、文化的なきっかけです。2025年春、生成AIによる画像生成機能がSNSで話題となり、特に「ジブリ風」の表現が多くの注目を集めました。

このブームによって、これまでAIに触れてこなかった層が、「難しそうな技術」ではなく、「面白くて試せるもの」としてAIに接するようになりました。

重要なのは、この一時的な流行で終わらなかった点です。画像生成をきっかけにAIを使い始めた人の多くが、その後も文章作成や学習支援など、別の用途へと利用を広げていきました。

韓国の事例が示す普及の本質

韓国の急成長は、AI普及に必要な条件を分かりやすく示しています。

  • 政策による後押し
  • 自国言語で自然に使える性能
  • 一般層が触れるきっかけ

この3つが同時にそろったとき、AIは一気に社会へ浸透します。性能が高いだけでは不十分で、人々が「使う理由」を持てるかどうかが決定的だと言えるでしょう。

5. オープンソースAIが変える勢力図

2025年後半のAI普及を語るうえで、もう一つ見逃せない動きがあります。それが、中国発のオープンソースAI 「DeepSeek」 の急速な拡大です。
Microsoftのレポートでは、DeepSeekの台頭を単なる新サービスの登場ではなく、世界のAI普及構造そのものを揺るがす変化として位置づけています。

DeepSeekとは何が違うのか

DeepSeekが注目を集めた最大の理由は、技術的な性能そのものよりも、その提供方法にあります。DeepSeekには、次のような特徴があります。

  • モデルがオープンソース(MITライセンス)で公開されている
  • Web・モバイルで完全無料で利用できる
  • クレジットカード登録や有料プランが不要

これにより、これまで生成AIの利用を阻んできた金銭的・技術的な障壁が一気に取り払われました。レポートでは、この点が「これまでAIから取り残されてきた地域」に強く響いたと分析しています。

普及が進んだのは「AI後進国」だった

DeepSeekの利用が急増したのは、北米や西欧ではありません。特に存在感を示したのは、以下の地域です。

  • アフリカ諸国
  • 中国、ロシア、イランなど一部の新興国
  • 欧米製AIサービスへのアクセスが制限されやすい国・地域

レポートによると、アフリカではDeepSeekの利用率が、他地域と比べて2〜4倍高い水準にあるとされています。
この結果は、AI普及が必ずしも「先進国から順に広がるものではない」ことを示しています。使いやすく、手が届くAIが現れた場所から、利用は一気に進むのです。

なぜDeepSeekは受け入れられたのか

DeepSeekが支持を集めた背景には、複数の要因があります。

第一に、価格の問題です。
多くの生成AIサービスは、有料プランや決済手段を前提としており、これが新興国では大きな壁になっていました。

第二に、アクセスの問題です。
国や地域によっては、欧米企業のサービスが政治的・技術的に使いにくい場合があります。
DeepSeekは、そうした制約を受けにくい立場にありました。

第三に、オープンソースであることです。
開発者や研究者が自由に中身を確認し、改良できる点は、現地での導入やカスタマイズを後押ししました。

これらが重なり、DeepSeekは「高性能だから」ではなく、「使える条件がそろっていたから」選ばれたAIだったと言えます。

▶︎あわせて読みたい記事:DeepSeek、アフリカで普及

オープンソースAIが示す新しいAI格差の形

DeepSeekの事例は、AI格差の捉え方を変えます。これまでの議論では、AI格差は「技術力の差」として語られることが多くありました。

しかしレポートは、次のような視点を提示しています。

  • AI格差は、性能よりもアクセスの問題である
  • 誰が最先端モデルを作れるかではなく、誰が使えるかが重要
  • 無料・オープンという選択肢が、新しい利用者層を生み出す

つまり、オープンソースAIは、格差を縮める可能性を持つ一方で、どの国・どの勢力のAIが使われるかという新たな競争も生み出しています。

普及と同時に浮かび上がる課題

レポートでは、DeepSeekの拡大を無条件に肯定しているわけではありません。オープンソースAIが急速に広がることで、次のような課題も指摘されています。

  • 安全性やガバナンスの確保が難しい
  • 利用実態を把握しにくい
  • 国家間の影響力競争に使われる可能性

それでも、DeepSeekの登場が示したのは明確です。

6. Microsoftレポートが示す今後の課題

ここまで見てきたように、2025年の生成AIは、確実に世界へと広がっています。しかしMicrosoftのレポートが伝えているのは、「AIがどれほど普及したか」よりも、「どのように普及しているのか」という点です。

AIは成長エンジンにも、格差要因にもなり得る

生成AIは、生産性の向上や学習機会の拡大など、大きな可能性を持つ技術です。一方で、AIを使える地域と使えない地域の差が固定化されれば、その恩恵は一部に集中してしまいます。

レポートでは、AIが次のような存在になりつつあると示唆されています。

  • 使える人にとっては、仕事や学習を加速させる道具
  • 使えない人にとっては、競争力の差を広げる要因

つまりAIは、経済成長を支える技術であると同時に、新たな格差を生み出す可能性をはらんだ技術でもあります。

課題は「技術」よりも「環境」にある

重要なのは、多くの地域で問題となっているのが、AIの性能そのものではない点です。レポート全体を通して浮かび上がる課題は、次のような「環境要因」に集約されます。

  • 安定したインターネット環境の整備
  • AIを学ぶ教育機会の不足
  • 自国言語への対応の遅れ
  • 公共分野でのAI活用の停滞

これらが整わなければ、どれほど高性能なAIが登場しても、社会全体には浸透しません。AI格差の本質は、技術を「使える状態」にできるかどうかにあります。

オープンソースAIが示したもう一つの選択肢

DeepSeekの事例が示したのは、別の可能性です。無料で、制約が少なく、現地に合わせて使えるAIがあれば、これまで取り残されてきた地域でも普及は進みます。

一方で、オープンソースAIの拡大は、どの国のAIが使われるのかという新たな競争や、安全性・ガバナンスの課題も浮き彫りにしました。

レポートは、AI普及が単なる技術競争ではなく、政策、経済、地政学を含む総合的なテーマになったことを示しています。

2025年は「AI普及の分岐点」

Microsoftのレポートを総合すると、2025年は次のような年だったと位置づけられます。

  • AIが一般層に広がり始めた年
  • 同時に、AI格差が明確に可視化された年
  • 今後の選択次第で、差が縮まるか固定化されるかが決まる年

今後問われるのは、AIをどれだけ高度にできるかではありません。誰が、どこで、どのようにAIを使える社会をつくるのかという視点です。
この問いにどう向き合うかが、次の数年のAI普及と、その先の社会の姿を大きく左右することになるでしょう。

まとめ

Microsoftの最新レポートが示したのは、生成AIがすでに「一部の先進的な技術」ではなく、世界で6人に1人が使う現実的な道具になったという事実です。
2025年は、AI普及が量の拡大から質と構造の問題へと移行した転換点だと言えるでしょう。

一方で、AI利用の広がりは決して均等ではありません。先進国と新興国の間では、利用率だけでなく成長スピードにも差があり、AI格差は縮まるどころか拡大しています。

国別に見ると、AI利用が進んでいる国では、技術力だけでなく、政策、教育、言語対応、そして人々が触れるきっかけがそろっていました。
韓国の急成長や、オープンソースAIであるDeepSeekの拡大は、AI普及の本質が「性能」ではなく「使える環境」にあることを明確に示しています。

これからのAIは、どれほど高性能かを競う段階を超え、誰が、どこで、どのように使えるのかが問われるフェーズに入っています。
AIが成長のエンジンになるのか、新たな格差要因になるのか。その分かれ道に立っているのが、まさに今だと言えるでしょう。