AIのためのデータ形式「TOON(トゥーン)」。JSONを超える最適化設計
「TOON(トゥーン)」とは、「Token-Oriented Object Notation」の略で、一言でいうと「AI(LLM)とのデータ交換に特化した、とても効率的な新しいデータ形式」です。
これまで、プログラム同士がデータをやり取りする際は「JSON(ジェイソン)」という形式が広く使われてきました。JSONは人間にも機械にも分かりやすい優れた形式ですが、AIにとって非効率な面がありました。
そのため、AIのコスト削減や高速化の鍵となる新形式「TOON」が注目を集めています。
◆JSONとTOONの比較
| 比較項目 | JSON(ジェイソン) | TOON(トゥーン) |
| 主な用途 | Web API、設定ファイル、一般的なデータ交換 | LLMへのデータ入力(プロンプト)、AIエージェント連携 |
| 特徴 | 厳格な構文。キーと値のペアを繰り返す。 | キーの宣言は一度だけ。CSVのような表形式の記述。 |
| トークン効率 | 低い(特に同じ構造の配列データで冗長) | 非常に高い(JSON比で30%~60%削減の報告あり) |
| AIへの影響 | トークン数が多くなり、コスト増・速度低下の要因に。 | コスト削減、処理速度の向上、データ理解度の向上も期待できる。 |
| 弱点 | AI利用時のトークン非効率性。 | 非常に複雑なネスト(入れ子)構造や不規則なデータは苦手な場合がある。 |
| 使い分け | AI以外のシステム間通信(今後も主流) | AI(LLM)が関わる処理(特にRAGやDB連携) |
「TOON」は、トークンを節約するために誕生
AI(LLM)の利用には、多くの場合「トークン数」に応じた料金がかかります。トークンとは、AIが処理するテキストの単位(おおよそ単語や文字)のことです。
JSONは、AIに渡すデータに { } や " といった記号や、同じ見出し(キー)を何度も繰り返す必要があります。これら全てがトークンとしてカウントされるため、データが大きくなればなるほど、トークン数がかさみ、コスト増加や処理の遅れにつながっていました。
TOONは、この「ムダ」を徹底的に省き、AIに送るデータ量を最小限に抑えるために設計されました。
なぜ今までのJSONではダメだったのか?
JSONが「ダメ」なわけではありません。システム間の通信においては、今でもJSONが最適解である場面は多くあります。問題は、AI(LLM)とのやり取りという特定の場面です。
AIにとっては「ムダ」が多いJSON
例えば、AIに「3人のユーザーリスト」をJSON形式で渡す場合、以下のようになります。
JSONの例
{ "users": [ { "id": 1, "name": "Alice" }, { "id": 2, "name": "Bob" }, { "id": 3, "name": "Carol" } ] }
AIにとって重要なのは「1, Alice」「2, Bob」「3, Carol」という中身です。しかしJSONでは、"id": や "name": といった見出し(キー)が3回も繰り返され、{ } [ ] , " といった記号も多用されています。これら全てがトークンを消費してしまうのです。
【比較】TOONならこんなにコンパクト
同じデータをTOONで表現すると、驚くほどシンプルになります。
TOONの例
users[3]{id, name} 1, Alice 2, Bob 3, Carol
TOONは、「これからusersのデータを3件、idとnameの項目で送ります」と最初に一度だけ宣言します。あとは、CSVファイルのようにデータの中身だけを並べるため、キーの繰り返しや不要な記号が一切ありません。
研究によれば、TOONはJSONに比べてトークン数を30%〜60%も削減できるケースがあると報告されています。
TOONがもたらす3つの大きなメリット
トークン効率が劇的に改善することで、AI利用において3つの大きな恩恵が期待できます。
◆TOONの3つのメリット
メリット1:AIの利用料金が安くなる(コスト削減)
メリット2:AIの応答が速くなる(速度向上)
メリット3:AIが賢く動く(精度向上)
メリット1:AIの利用料金が安くなる(コスト削減)
API経由でAIを利用している場合、利用料金はトークン数に比例します。TOONを使ってトークン数を半分にできれば、AIの利用コストも単純に半分に近づきます。AIを頻繁に使うサービスほど、この効果は絶大です。
メリット2:AIの応答が速くなる(速度向上)
AIに渡すデータ量が減るため、AIがデータを読み込んで理解するまでの時間が短縮されます。これにより、ユーザーへの応答速度(レスポンス)が向上します。
メリット3:AIが賢く動く(精度向上)
JSONの冗長な記号や繰り返しは、AIがデータを誤解する(幻覚)原因にもなり得ます。TOONは情報が整理されているため、AIがデータ構造を正確に把握しやすくなり、より精度の高い回答や処理が期待できます。
JSONはもう不要? TOONとの「使い分け」が重要
「TOONが登場したから、もうJSONは古い」というわけではありません。それぞれに得意分野があります。
- TOON
AI(LLM)とのデータ交換。特に、データベースの検索結果(RAG)など、大量の表形式データをAIに渡す場面で真価を発揮します。 - JSON
従来のWeb APIやシステム同士の通信。汎用性(はんようせい)と信頼性が高く、今後もデータ交換の「共通語」として使われ続けます。
まさに「適材適所」です。AIが関わる部分ではTOONを、それ以外のシステム間ではJSONを、と賢く使い分けることが重要になります。
まとめ

「TOON」は、AI(LLM)の運用コストと性能に直結する「トークン効率」の問題を解決するために登場した、新しいデータ形式です。
JSONの「キーの繰り返し」や「記号の多さ」といったムダを省き、データをコンパクトにすることで、AIのコスト削減、高速化、精度向上を実現します。
JSONを完全に置き換えるものではありませんが、AIが社会のインフラとなる「AI時代」において、TOONはデータを扱うための新しい「常識」になっていくかもしれません。