SEIKO、世界陸上東京2025でAI計測システム「VTT」を実用化
東京で開幕した世界陸上2025(9月13日〜21日)では、SEIKOが開発した「Video Track Tracking System(VTT)」が短距離種目で初導入されました。競技計測におけるAI活用の最新事例として注目を集めています。
VTTの主な特徴
- 世界陸上東京2025で初導入
短距離種目(100m~400mハードル)を対象に運用。 - 競技場全周に12台のカメラを設置
トラックを走るすべての選手を途切れなく撮影。 - AIによるリアルタイム解析
各選手の位置を追跡し、ラップタイムやスピードを即座に計算。 - 動的データの可視化
ゴール判定やラップ通過だけでなく、レース中の加速・減速を数値で表示。 - 観客体験の向上
計測データをテレビ中継や大型ビジョンでリアルタイム表示し、戦術理解や臨場感を強化。 - 従来技術からの進化
スリットビデオや光電管では得られなかった「動態データ」を提供。静的計測から動的解析へと進化。 - 多用途への応用可能性
公式計測だけでなく、選手のトレーニングや戦術分析にも活用が期待される。
【出典元】
SEIKO 公式ニュースリリース
SEIKO スポーツ計測特設ページ
World Athletics 公式記事
SEIKO STC 計測機器カタログ
SEIKO STC 製品ページ(スリットビデオシステム STS-585)
SEIKO STS 製品ページ(フォトビームユニット STS-786)
AIによる高精度な動作解析
VTTは競技場に設置された12台の高性能カメラで選手を同時に撮影し、AIが自動解析。レース中の位置情報を正確に抽出し、ラップタイムやスピードを瞬時に算出します。これにより従来の後処理型データ計測から一歩進み、リアルタイムでの高度なパフォーマンス分析が可能になりました。
◼︎システム概要
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| システム名 | VTT(Video Track Tracking System) |
| 導入大会 | 世界陸上2025(東京) |
| 使用技術 | AI画像解析、マルチカメラ追跡 |
| カメラ設置数 | 12台 |
| 計測データ | ラップタイム、速度、位置情報 |
| 特徴 | リアルタイム処理、誤差の最小化 |
AIはどうやって選手を追跡するのか
VTTの仕組みは、従来の計測技術を拡張しつつ、AIを取り入れることでリアルタイム性を実現しています。一般的なスポーツ映像解析の流れを踏まえると、次のようなプロセスで構成されます。
- マルチカメラ撮影
競技場全周に12台のカメラを設置し、選手の姿を常に複数の視点から記録。 - 選手検出
AIが映像から選手を背景と分離し、対象を自動認識。 - 継続的トラッキング
フレームごとに「同じ選手」を識別し続け、動きを追跡。 - 座標変換と速度計算
映像上の位置をトラックの実座標に変換し、距離と時間から速度やラップを算出。 - リアルタイム可視化
計算結果を即座に処理し、テレビ中継や大型ビジョンに表示。
この一連の処理によって、観客はレース中のスピード変化や駆け引きを即座に把握できるようになりました。従来のゴール判定やラップ通過計測にとどまらず、レース全体の動態データを提供できる点が、VTT最大の特徴です。
セイコー従来技術との比較
SEIKOはこれまでも世界陸上の計測を支えてきましたが、VTTは従来技術を大きく進化させています。公式に確認できる範囲で、代表的な技術との違いを整理しました。
| 技術名 | 特長/機能 | VTTとの比較・進化点 |
|---|---|---|
| スリットビデオシステム | ・フィニッシュラインに設置されたカメラで、高速スキャン(1秒間に最大6,000~20,000枚)による写真判定用画像取得。 ・画像補正機能や電源冗長性を備える。 – 判定用に特化しており、リアルタイム可視化は限定的。 | VTTは12台のカメラでトラック全周を撮影し、AI解析によってラップタイムやスピードをリアルタイムで算出。静的判定から動的解析へと進化した。 |
| フォトビームユニット(光電管) | 光が遮られることで選手通過を検知し、計時信号を発生。得られるのは通過タイムのみ。 | VTTは通過タイムに加え、速度変化やラップ比較といった動的データも提供。 |
| スタートインフォメーションシステム | スターティングブロックの圧力検知でリアクションタイムを測定し、フライング判定を補助。 | VTTはスタートには関与しないが、レース全体の動きをAI解析することで、従来技術を補完する新領域を切り開いた。 |
技術革新がもたらす未来
このシステムは、単なる観戦支援にとどまらず、選手のトレーニングや戦術分析にも応用可能です。AIによる映像解析の進化は、競技記録の信頼性向上と同時に、スポーツ科学の新たな展開を後押しすると期待されています。